京都地方裁判所 昭和46年(ワ)758号 判決 1973年6月29日
主文
昭和四六年(ワ)第七五八号事件被告水谷典尾(以下被告典尾という)が昭和四二年一一月一五日、昭和四六年(ワ)第七五八号事件被告、同四七年(ワ)第一二号事件原告水谷須洋(以下被告須洋という)に対し、別紙物件目録第一記載の不動産(以下本件物件という)についてなした贈与を取り消す。
被告須洋は昭和四六年(ワ)第七五八号事件原告、同四七年(ワ)第一二号事件被告山中元吉(以下原告という)に対し、本件物件について昭和四二年一一月一七日京都地方法務局受付第三二五六一号を以てなした所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。
原告のその余の請求及び被告須洋の請求はいずれもこれを棄却する。
訴訟費用はこれを五分し、その一を原告の、その余を被告須洋並びに昭和四六年(ワ)第七五八号事件被告水谷典尾(以下被告典尾という)の各負担とする。
事実
昭和四六年(ワ)第七五八号事件
第一 求めた裁判
原告
被告らと原告との間において、本件物件が原告の所有であることを確認する。
主文第二項同旨。
被告典尾は原告に対し本件物件につき錯誤是正を原因とする所有権移転登記の手続をせよ。
訴訟費用は被告らの負担とする。
との判決。
被告ら
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
との判決。
第二 請求の原因
一 本件物件は原告の所有である。
二 原告は昭和三三年五月ごろ、本件物件を当時の所有者であつた訴外村松菊次郎から代金二五万円で買い受けたが、これに居住していた被告典尾の懇請により、同被告死亡の際または原告の要求があればいつでも真正の権利状態に合致せしめるとの約定のもとに昭和三三年六月二六日登記名義を被告典尾とした。
三 しかるに被告典尾は本件物件につき、昭和四二年一一月一五日付贈与を原因として被告須洋のため、主文第二項掲記の所有権移転登記をなし、被告須洋はその後本件土地建物の所有権者であると称している。
四 もとより無権原の被告典尾から譲渡を受けた被告須洋が本件物件の所有権を取得するいわれはないが、右は原告の所有権行使を妨げるものであるから、原告は被告らに対しその所有権の確認を、また被告典尾に対しては前記約定に基づき、被告須洋に対しては所有権に基づき、真実の権利関係に符合するよう原告のため所有権移転の登記並びに無効の登記の抹消登記手続をなすべきことを求める。
五 またかりに右主張が容れられないとしても、被告典尾は原告に対し少くも本件物件の所有権を完全に移転すべき債務を換言すれば他に所有権を移転してはならない債務を負担していたものであるところ、前記のように被告須洋に対して本件物件を贈与したとすれば、原告は被告典尾の債務不履行により本件物件の所有権移転を受けることが不可能でないまでも著しく困難となり多大の損害を蒙ることとなるが、被告典尾には他に資産なく、本件物件がその唯一の財産であつたのであるから、原告は右損害の賠償をも受け得ない結果となることは明らかである。
すなわち右贈与はいわゆる詐害行為に該当するので取消を免れないものというべく、これに伴い原告は被告須洋に対し右詐害行為により取得した本件土地建物の返還方法として、主文第二項掲記の登記の抹消登記手続を求める。
第三 請求の原因事実に対する被告らの主張
一 請求原因一項の事実は否認する。本件物件の所有者は被告須洋である。
二 同二項中本件物件の前所有者が訴外村松菊次郎であること、昭和三三年六月二六日その所有名義が同訴外人から被告典尾に移転したことは認めるが、その余の事実は否認する。被告典尾は当時同訴外人から本件物件を買い受けて自らその所有者となつたものである。
三 同三項の事実は認める。
四 同五項の事実は否認する。
第四 被告須洋の抗弁
一 かりに被告典尾の前記所有権取得の登記が仮装のものに過ぎなかつたとしても、被告須洋はこれについて善意の第三者であつたから、自ら前記のような仮装状態を作り出した原告は、これを以て被告須洋に対抗することはできない。
二 またかりに本件贈与が詐害行為に当るとしても、被告典尾はともかく被告須洋はこれにより原告を害することなどは知る由もなかつたのであるから、右贈与を取り消すことは許されない。
第五 抗弁事実に対する答弁
抗弁事実はすべて否認する。
昭和四七年(ワ)第一二号事件
第一 求めた裁判
被告須洋
被告が原告に賃貸している本件貸室部分の賃料は昭和四五年一一月一日から同四八年五月三一日までは一ヶ月につき金三万円、同年六月一日からは一ヶ月につき金四万円であることを確定する。
訴訟費用は原告の負担とする。
との判決。
原告
被告須洋の請求を棄却する。
訴訟費用は被告須洋の負担とする。
との判決。
第二 請求の原因
一 被告典尾は昭和三三年六月二一日その所有にかかる本件物件のうち別紙物件目録第二記載の部分(以下本件貸室部分という)を原告に対し賃料月額金三、〇〇〇円毎月五日限持参払の約定で貸し渡した。
二 右賃料はその後改訂され、昭和四一年一〇月一日からは月額金二万円である。
三 被告須洋は昭和四二年一一月一五日被告典尾から本件物件の贈与を受けその所有権を取得するとともに、原告に対する賃貸人の地位をも承継した。
四 ところで前記約定賃料は、本訴提起時においては本件物件の公租公課の増徴或は近隣の同種建物の賃料に比して著しく低額である。
少くも本件賃室部分の賃料は、昭和四五年一一月以降は月額金三万円以上、同四八年六月以降同じく金四万円以上を以て相当と認められる。
五 そこで被告須洋は原告に対し右賃料増額方を書面で請求したが、原告はこれに応じないので、その確定を求める。
第三 請求の原因に対する原告の認否
一 請求原因一、二項の事実は否認する。ただし原告が被告須洋主張の年月日から本件貸室部分を使用占有し、被告典尾に対し、賃料名下に月額金三、〇〇〇円の金員を支払つていたこと、またその額が変動し昭和四一年一〇月以降金二万円となつていたことはいずれも争わない。右金員は本件貸室部分の使用の対価ではなく、被告典尾の生活費の援助である。
二 同三、四項の事実は否認する。
三 同五項中被告須洋主張の書面が原告に到達したことは認めるがその余の主張は争う。
第四 原告の抗弁
かりに被告須洋の主張が認められるとしても、その所有権取得の原因である本件物件の贈与は、別件(昭和四六年(ワ)第七五八号事件)において原告が主張するように詐害行為として取消を免がれないものである。
従つて被告須洋は遡つて賃貸人たるの地位を失うこととなるので本件請求は失当である。
第五 抗弁に対する被告須洋の主張
抗弁事実は否認する。
証拠関係(省略)
(別紙)
物件目録
第一 京都市中京区河原町通三条上る恵比須町四三五番地の一二
一 宅地 四六・五一平方米(一四坪七勺)
同所四三五番地の一三
一 宅地 二・八四平方米(八合六勺)
同所四三五番地の一二
家屋番号同町一五番二
一 木造瓦葺二階建 居宅一棟
一階 三一・九九平方米(九坪六合八勺)
二階 一二・六九平方米(三坪八合四勺)
付属建物
木造瓦葺平家建 便所一棟
一・四八平方米(四合五勺)
第二 前記建物のうち別紙図面の斜線部分
約三〇・五五平方米
(別紙)
<省略>